要旨:1984年にPeriod遺伝子がクローニングされた時には医学生物学研究者の間には強烈な衝撃が走った。なぜならたった一個の遺伝子上の一塩基配列の違いで生物の時計が長くなったり短くなったり、時計が止まったりしたのである。これはまさしくBenzer博士の提唱した一遺伝子一行動説を裏付ける結果であった。それではなぜこの遺伝子が生物の時計として機能するのかが次の大問題となった。この辺りの話題を過去のBenzer博士のDNAの概念での活躍から歴史も含めて解説したい。
睡眠や食事を初め、毎日の生活リズムを司る体内時計について30年も前からつくば市の産業技術総合研究所で世界に先駆けて研究を進めて来られた石田先生にお話を伺いました。生物の概日リズムについての研究では1930年代にマメ科の植物で、照射する光に変化がなくても葉が閉じることが見出されています。動物では、1970年の初めに睡眠周期の狂ったショウジョウバエ数匹が見つかり、周期を決める遺伝子がX染色体の中に存在するとわかったことで基礎研究の突破口が開けました。残念ながら発見者の1人であるカリフォルニア工科大学のベンザー(Seymour Benzer)博士は2007年に亡くなり、体内時計に関する2017年のノーベル生理学・医学賞は、研究を引き継いだ米ブランダイス大学のホール(Jeffrey C. Hall)博士とロスバシュ(Michael Rosbash)博士,ロックフェラー大学のヤング(Michael W. Young)博士の3氏に与えられました。研究が完成するまでには幾多の混乱もあったようで、その辺の歴史も含めて複雑で巧妙な時計遺伝子についての解説をお聴きしました。